2026
9/13
9/13
【コラム】「Sには、Sの暮らしがあるから」
それから年月が経ち、Sくんは仕事のために町を離れました。
帰省できるのは、お盆やお正月、それに少し長い休みが取れたときくらい。祖母も年を重ね、一人でお墓まで出かけることが、少しずつ難しくなっていきました。
ある日、久しぶりに帰省したSくんに、祖母がぽつりと言いました。
「このお墓、私がいなくなったらどうしようね」
Sくんは、すぐに答えました。
「俺が見るよ。ちゃんとお参りにも来るから」
すると祖母は、うれしそうに目を細めたあと、少し困ったように笑いました。
「ありがとう。でもね、SにはSの暮らしがあるから」
祖母は、お墓を大切に思っていました。だからこそ、その先のことも、自分が元気なうちに考えておきたかったのでしょう。
そして同じくらい、遠くで暮らす孫のことも大切でした。
忙しい仕事の合間に、無理をして帰ってこなくてもいい。お墓のことが気がかりで、自分の暮らしを後回しにしなくてもいい。
「会いたいなと思ったときに、手を合わせてくれたら、それでいいんだよ」
祖母はそう言って、Sくんの湯飲みにお茶を注ぎました。


