2026
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【コラム】守るべきもの

第二話 それぞれの「守りたいもの」

数日後。

祖母の家の庭には、金木犀の甘い香りが漂っていた。

縁側には温かいお茶が二つ並び、少し冷たくなった秋の風が庭木を揺らしている。

しばらく世間話をしていた父は、湯飲みを置くと、意を決したように口を開いた。

「母さん。このお墓……これからどうしようかと思ってるんだ」

祖母の手が止まった。

「どうするって?」

父は、できるだけゆっくりと言葉を選んだ。

「俺が元気なうちはいい。でも、その先のことを考えたら……墓じまいも、少し考えておいた方がいいのかなって」

祖母の表情が曇った。

「お墓をなくすの?」

その一言に、父の胸は痛んだ。

父が考えていたのは、先祖を粗末にすることではない。

むしろ、この先もきちんと供養を続けていくためだった。



しかし祖母にとって「墓じまい」という言葉は、大切な夫の居場所をなくしてしまうことのように聞こえた。

その日の夜。

父は県外で暮らす娘に電話をした。

「おばあちゃん、やっぱり嫌みたいだ」

少し間を置いて、娘は父に聞いた。

「お父さんは、どうしたいの?」

父は、すぐには答えられなかった。

自分が楽をしたいわけではない。

先祖を大切にしたくないわけでもない。

ただ、娘や、その次の世代にまで「守らなければならないもの」として残したくはなかった。

「誰かが困る未来には、したくないんだよ」

父は、ようやくそう言った。

電話の向こうで、娘も黙った。

娘にも迷いがあった。

あのお墓をなくしたら、祖父との思い出まで薄れてしまうような気がする。

祖母と並んで歩いた坂道。

線香の匂い。

秋になると買ってもらった栗まんじゅう。



どれも、娘にとって大切な記憶だった。

けれど同時に、自分が遠くに暮らしている現実も分かっている。

父が年を重ねた後、自分がどれだけ通えるだろう。

三人とも、考えていることは違うようで、本当は同じだった。

「大切な人を、これからも大切にしたい」

ただ、その守り方が違っているだけだった。

そして数日後。

三人は、もう一度一緒に墓参りへ行くことになった。

その日、祖母の口から、父も娘も想像していなかった言葉がこぼれる。

つづく

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